
Q1. 相続開始前の人間関係で気をつけた方がよいことはありますか?
相続の分割には相続開始までの人間関係が大きく影響するというのが実感です。日頃から、兄弟などの人間関係がうまくいっていたり信頼関係があれば、相続の話合いのときも意思の疎通は生まれやすいものです。
「魅は与によって生じ、求によって滅す」という言葉があります。あの人は魅力があるというときは、与える(物だけではなく、気持ちも含めて)人であり、求めるばかりの人は魅力が減っていくものだということを表した言葉です。こうした心がけも大切なことです。
相続の話合いのときに、難しいものがあります。
よくあるケースには、農家の長男と他の人たちとの関係があります。農家を継いだ長男が、実際には遺産の土地で農家を営んでおり、他の兄弟たちは別に生活しています。現実には、その人間関係にあった背景が、この相続によって爆発するケースが多いようです。
良い関係が築けたある長男
ある長男の話ですが、長男が遺産の全部を相続し、家を守っていくことになりました。ちょうどその土地に収用の話が起こり、県が道路用地として買ってくれることになったのです。
そこで、長男は兄弟全員を集めてその話をしました。
「先祖の土地を預からせてもらっているので、その土地がお金になりました。ついては少ないけど・・・」と言って、全員に100万円ずつ渡しました。
他の兄弟たちは、長男は墓守や同居の母親の面倒、それに近所づきあいも大変なことを理解していました。 しかも、財産は長男にまかせていたので、もとから何も文句をいうつもりはなかったのです。
しかし、この件によってますます「あの兄貴に任せておけば安心」という感じになったのです。
Q2.生命保険は分割対象の遺産にならないことがあると聞きましたが、どういうことですか?
A2.受取人の指定がある死亡保険金は、受取人固有の財産となり、遺産分割協議の対象となりません。特定の相続人に財産を多く残したいときに有効な手段となります。
死亡保険金はみなし相続財産となり、本来は被相続人の相続財産に含まれないものなのですが、その経済的価値や財産の性格上、これらを被相続人の財産とみなして相続税の課税の対象としています。
しかし、受取人の指定がある死亡保険金は、本来被相続人の財産ではなく、受取人固有の財産となります。その財産の取得原因がたとえ被相続人の死亡によるものだとしても、遺産分割の対象とはなりません。
例えばこんな事例がありました。
父親は長男に多額の遺産を残したいと考えていました。そのとき、「すべての遺産を長男1人に相続させる」という遺言を残したとしたらどうでしょうか。遺言がある場合には、法定相続分に優先して遺言により配分されることになりますが、それでも法定相続人には、それぞれ法定相続分の2分の1の遺留分が認められており、相続分がそれ以下になってしまうときには遺留分の減殺請求を行なうことができます。ですから、遺言を残すという方法は得策とは言えません。
そこで父親は、自らを被保険者として生命保険に加入し、長男を死亡保険金受取人としました。
死亡保険金は原則として受取人、すなわち長男に渡り、遺産分割協議の対象になりません。すなわち遺留分の計算の対象にならないので、結果として、長男に多額の遺産を渡すことができたのです。
しかし、こうした原則にあてはまらないケースもあるので、覚えておきましょう。それは、ほかの相続人の遺留分を少なくすることを大前提にして生命保険に加入した場合です。これは相手に損害を与えることを承知で行なったとみなされ、裁判で負けた事例があります。ですから遺留分を少なくする目的で生命保険に入ってはいけないのです。
また、死亡保険金の受取人は複数指定することもできます。たとえば、死亡保険金受取人を妻2分の1、長男2分の1とすると、そのように分配されます。相続財産が土地しかなく、相続税を生命保険で賄おうとする場合などに、有効な方法でしょう。
ただし、受取人の指定を「相続人」としている場合には、相続人の共有財産と考えられ、遺産分割協議の対象になります。
Q3.死亡保険金ではんこ代を用意するとはどういうことですか。
A3.代償分割を行なう際の代償交付金(はんこ代)の財源として、生命保険を活用する方法があります。トラブルを防止するためにも、早めに手当てしておくとよいでしょう。
遺産を分割する際、原則としては法定相続人が全員揃って協議を行ない、全員の了解を得たうえで遺産分割協議書を作成します。ただし、遺産の相続が本家中心で行なわれる場合には相続人が全員参加する形式での遺産分割協議は行なわれないこともあります。
その場合、遺産の分割協議を完成させるためには、遺産分割の内容を了解したしるしとして、非同居の法定相続人に遺産分割協議書に実印を押してもらわなくてはなりません。
たとえば、父親がお店を経営していて、財産は店舗兼自宅の敷地と建物だけです。長男はお店を手伝っていて、ゆくゆくはお店を継ぐ予定です。次男はサラリーマンで、父親とは別に暮らしています。
父親が亡くなり相続が発生した場合、店舗兼自宅を長男と次男が共有で相続すると、長男は事業が大変やりにくくなります。事業用の財産は、事業を引き継ぐ長男がすべて相続するのがよいのですが、それでは次男の相続分が極端に減ってしまいます。
このような場合には代償分割という方法が有効で、長男は店舗兼自宅を一人で相続し、その代わり次男に対して、長男の財産から代償交付金、すなわち、「はんこ代」が支払われます。実際に支払われているはんこ代の金額にはかなり幅があり、下は数十万から上は数億もしくは遺留分までと様々です。問題は、このはんこ代をどう工面するかです。長男が手元に多額の現金をもっていれば話は簡単ですが、大金は突然用意できないのが普通です。そこで生命保険を活用します。
長男は契約者、父親を被保険者、長男を死亡保険金の受取人とした生命保険に加入します。
このような契約の生命保険に加入すると、父親に相続が起きた場合には、長男に保険金が支払われます。長男はここから次男へのはんこ代を捻出するのです。トラブル防止策として、代償分割の財源を生命保険で手当てしておくのは有効な手段です。
ただし、この保険金は長男の一時所得となり、所得税・住民税の対象になることを覚えておきましょう。はんこ代に当てることができるのは、保険金から所得税を差し引いた金額になります。
Q4.生命保険が遺言の代わりになるとはどういうことですか?
A4.生命保険を上手に活用することで、被相続人の遺志を相続人に伝えることができます。これによって遺産分割をスムーズに行なうこともできます。
本来、遺言書は遺産分割協議のときに、相続人同士がもめないために書くものです。しかし、相続財産がそれほどない人の場合、「遺言書を書くなど大げさだ」と思っている人が多いのものです。
しかし、相続は「争族」と言い表わせるくらい、親族間でのトラブルが多いものですから、スムーズな遺産分割ができるような対策をしておくことが重要です。
こんなケースがありました。長男が両親と同居し、長女は他家に嫁いでいるとします。ですが、父親が亡くなった場合の相続財産は居住用の土地・建物しかなく、長男がそれを相続したら、長女が相続する財産はまったくありません。これではもしかしたら長女に不満が出るかもしれません。日頃仲のよい兄弟であっても、それぞれが独立した経済生活を営んでいますから、各人がある程度自己主張をするのはいたしかたないことかもしれませんが、その際に言わなくてもいいこともつい口に出してしまい、気まずい雰囲気になってしまうことも多いのです。そして、争いが発展すると、「家を売ってお金に換えて、それを2人で分ける」ということにもなりかねないのです。すなわち兄弟は複数いるのに主な財産は自宅だけとなると、もめるケースが多いのです。
そうしたトラブルを未然に防ぐために、父親は長女を受取人とした生命保険に加入しました。万一のときに死亡保険金が長女に支払われると、長男は自宅を相続し、長女は死亡保険金として現金を受け取ることになります。
父親は生前、このことをいっさい秘密にしていました。父親の死後、長女は思わぬ生命保険金を受取りました。父親が自分のことを気づかってくれていたことを知り、とても感激したそうです。
もちろんこの兄弟間には争いはなく、長男が自宅を相続することで、分割協議はスムーズに進みました。生命保険が、父親が長女に当てた無言のメッセージとなったのです。
このとき生命保険営業担当者は、父親が保険に入った時のいきさつなどを長女に伝えたそうです。「心優しい娘にわずかだけど何か残してやりたいと、お父様はおっしゃっていましたよ」と伝えると、長女は感激のあまり涙を流したそうです。
Q5.母親に先立たれた場合の注意点は何でしょうか?
A5.母親が先に亡くなり、あとから父親が亡くなった場合、残された子供たちだけで本格的な相続をはじめて経験することになるので、トラブルが発生しやすいものです。その点を十分注意しましょう。
Q6.夫が痴呆症になり、意思決定能力がなくなってしまったら、どうしたらよいでしょうか?
A6.通常の遺産分割は相続人同士の話し合いで行なわれるので、被相続人の意思決定能力がなくても、まったく問題ありません。今後は元気なうちに成年後見人制度を利用する人も増えるでしょう。
相続のお手伝いをしていると、「主人がボケてしまったが、相続のときに問題はおきないでしょうか」と、奥様から質問を受けることがよくあります。結論から言えば、遺産の分割にはまったく問題ありません。遺産の遺産分割協議は相続人の話し合いで行なえばよく、被相続人の意思決定能力は関係ないのです。
ただし、遺言書が残せないという問題は発生します。それをカバーするために、今後は成年後見制度を利用する人も増えるでしょう。急速な高齢化にともない、様々な支援を必要とする人が増え、それに対応する社会制度が整備されつつあります。福祉の分野では、介護保険がスタートし、一方、法律分野では権利擁護システムとして成年後見制度があります。これは、痴呆性の高齢者や障害者の方々が自立して生活できるように、財産管理や身上監護をとおして支援していく制度です。
現在、この寝たきりとか痴呆の人を支える制度としてあるのが、禁治産宣告制度、準禁治産宣告制度です。しかし、この制度は、使い勝手の悪い制度だと指摘されていました。それでも対象となる人が少ない時代、家庭に介護力がある時代には、この制度を利用しなくても、家庭が守ってくれました。
しかし、介護も契約が必要な時代になり、家庭の介護力にも期待できないので、本当に利用できる、後見法をつくらなければいけない状況になってきたのです。
そこで、介護を受ける契約が難しい場合、成年後見制度を利用して正しい介護が受けられるようになります。一人暮らしの高齢者など、何か契約を結ぶ場合や困った時に利用できます。能力が衰える前に信頼できる誰かに、自分が能力を衰えた後、医療、生活、財産管理などを、あらかじめ頼んでおくことができます。